イサベル・アジェンデ『パウラ、水泡なすもろき命』読了 梅風呂

2004年12月18日

イサベル・アジェンデ『パウラ、水泡なすもろき命』読了

イサベル・アジェンデ『パウラ、水泡なすもろき命』読了。原題は"Paula"。昨年購入し、半分ほど読んで中断していたのだが、この度じっくり読み直してみた。


作家として成功し、女性としても再婚を果たして、ようやく幸せへとたどりついたはずのイサベル・アジェンデだったが、28歳の最愛の娘パウラが倒れ、世界が闇に閉ざされた。遺伝性の奇病、ポルフィリン症だろうと診察されたが、だいたいの患者が快復に向かう半年が近づいてもパウラの昏睡状態は続き、意識は戻らなかった。ポルフィリン症の患者は、意識が戻っても記憶を失ってしまっていることが多いという。母イサベルは娘パウラに向け、家族の、自分の、そして娘の過去のすべてについて書きはじめた。パウラがその大きな美しい目を開ける日のために。


アジェンデ,イサベル
1942年、ペルーの首都リマで生まれる。父のトマスは、のちのチリ大統領サルバドール・アジェンデのいとこにあたる。国連機関で勤務ののち雑誌記者として働く最中に、1970年のアジェンデ社会主義政権の成立と73年のクーデタに遭遇、カラカスに亡命する。亡命中の81年に一族の歴史を題材にした処女作『精霊たちの家』が世界的ベストセラーとなり、その後、長篇『愛と影について』(84)、『エバ・ルーナ』(87)、短篇集『エバ・ルーナのお話』(89)など次々と作品を発表。88年にはアメリカ合衆国に移住し、全米図書賞受賞、90年にはガブリエラ・ミストラル賞を受賞し、名実ともに世界を代表する女性作家となる


愛娘パウラがポルフィリン症に倒れてからの1年を縦糸に、著者イサベル自身の半生、家族を巡る物語、チリの現代史を横糸に編まれた、500ページ近い大作である。作者自身が「特別な一作」と言っている。

娘への愛、家族の苦悩には身につまされ、また同時に生まれること、死ぬことについて立ち止まって考えさせられもした。
しかしやはり印象に残るのは、物語が我々に喚起させる豊潤かつ濃密なイメージである。南アメリカ大陸の空気、混沌、土着の血、呪術的雰囲気などが作品に織り込まれている。
同じく南米のガルシア・マルケスは、(たった一語で表すことなどとてもできないのだが)いわゆる「魔術的リアリズム」の代表的作家であるといわれている。イサベル・アジェンデの作品でも同じく現実と幻想的イメージが交錯するが、それでいて圧倒的な説得力を保っているのだ。

ラテンアメリカという「土地」と、ヨーロッパ人がもたらしたインド・ヨーロッパ語族イタリック語派であるスペイン語、ポルトガル語が交わったが故に、このような文体や物語が生まれたのであろうと想像する。
今はまだ著名な作家の生まれていないアフリカ大陸であるが(南アフリカのゴーディマ、クッツェーを除く)、旧フランス領アフリカ諸国で生まれた作家が、フランス語で書いた珠玉の作品が生み出されるのもそう遠くないであろう。今から楽しみである。


補足。アメリカはワシントンで生まれた「リービ英雄」という作家がいる。今は日本に住み、日本語でしか作品を書かない。その他、

・中国系アメリカ人二世で、英語で中国にまつわる作品を書く女性作家エィミ・タン(『ジョイ・ラック・クラブ』)、
・シリアはダマスカス出身で、ドイツ在住、ドイツ語で作品を書くラフィク・シャミ、
・両親はカルカッタ出身のベンガル人、イギリス生まれ、現ニューヨーク在住のジュンパ・ラヒリ(『停電の夜に』)


などが有名であろうか。このような生まれた土地、母語、書く言語、住んでいる場所が異なる作家については、また後日記述する。


イサベルアジェンデ公式HP
posted by うめ at 05:34| バンコク | Comment(3) | TrackBack(1) | 南米の本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。
イサベル・アジャンデの素晴らしさを知っている人に出会えてうれしいです。
翻訳ものは、英米文学を多く読んでいた私ですが、南米文学にも興味を持つようになりました。
ガルシア・マルケスも読んでみたい作家です。

RSSリーダーに登録して、実は始めての投稿なのです。
ですので、ちょっと緊張気味。
TBもさせていただきましたが、上手くいっているか心配です。
Posted by くろにゃんこ at 2005年02月12日 11:14
くろにゃんこさん、ようこそ!

最近は雑読気味ですが、ちょっと前までは翻訳ものばかりを好んで読んでいました。翻訳ものというと英米文学が一番訳書も多く、手に入りやすいですが、ちょっとマイナーな南米ものや、英語以外のヨーロッパものも面白いですよね。
ガルシア・マルケスの『百年の孤独』は一押しです。英語名をメールアドレスにしているくらいに・・・(笑)『エレンディラ』というちくま文庫から出ている短編集もなかなか面白いですよ!
Posted by うめ at 2005年02月12日 11:50
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Posted by オメガ at 2013年08月03日 13:22
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パウラ、水泡なすもろき命 イサベル・アジェンデ
Excerpt: 心ならずも、3冊ノンフィクションが続いてしまった。 そろそろ、内容の濃い純文学が読みたいなと思って出かけた図書館で、この本を見つけ、小説だと思って借りてしまったのだ。 でも、読み始めて、ただのノンフフ..
Weblog: くろにゃんこの読書日記
Tracked: 2005-02-12 11:02
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