小川洋子『密やかな結晶』(講談社文庫)読了。
以下は裏表紙より。
『妊娠カレンダー』の芥川賞作家が澄明に描く人間の哀しみ
記憶狩りによって消滅が静かにすすむ島の生活。人は何をなくしたのかさえ思い出せない。何かをなくした小説ばかり書いているわたしも、言葉を、自分自身を確実に失っていった。有機物であることの人間の哀しみを澄んだまなざしで見つめ、現代の消滅、空無への願望を、美しく危険な情況の中で描く傑作長編。
読み始めてすぐに気がついたのが、ポール・オースターの『最後の物たちの国で』、ジョージ・ウォーエルの『1984年』などと系列を同じくする、「ディストピア小説」だなあということである(「ディストピア」とは「ユートピア」の対義語)。というわけで、かなり気に入った。
「最後の物たちの国で」などとは異なり、この小説で失われていくのは「記憶」である。それは「言葉」と言い換えることもできよう。舞台となる島では、記憶(言葉)を失っていく者とそうではない者がいるのだが、共通の「言葉」を失っていく状況は、実社会にも通ずる意味深いものだ。
ネタばれになるので内容は詳しく書かないが、お勧めである。